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味の素株式会社(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2009)


味の素株式会社

〜心とからだの健康に熱心に取り組む味の素株式会社。人事部労務グループの栢原紫野様に、お話をうかがいました〜



【企業概要】

事業内容
 調味料、加工食品、飲料、医薬品、アミノ酸等の製造・販売
設立年
 1909年
従業員数
 4,046名(男性:3030名/女性:1016名)
女性管理職比率
 4.7%

【ワーク・ライフ・バランスの考え方】
―ワーク・ライフ・バランスについておうかがいしていきます。まず、貴社ではワーク・ライフ・バランスをどのようにとらえていらっしゃいますか
 「男性だから、独身だから、子どもがいないから、自分には関係ない」ではなく、ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)は誰もが自分のこととして考えるべきだと思っています。会社が多様な選択肢を提供することによって個人の成長や働きがいが向上し、個人の能力が向上してそれが存分に発揮されることによって新たな価値を創造し、会社への貢献に繋がる。こうした、個人(わたし)と会社の間に良いサイクルができることで、win-winの関係になれるのだととらえています。2008年7月に人事の担当役員をはじめ、労働組合や、各現場のカンパニーごとの企画部門長と人事部の管理職、合わせて12、3人で構成された「WLB向上プロジェクト」を立ち上げ、これをビジョンとして掲げました。

―実際にそのプロジェクトを立ち上げて、どんな反応がありましたか
 がむしゃらに頑張ることが良いこと、という時代を生き抜いてきた人たちは、受け入れるのに時間がかかったのではないかと思います。しかし今では、「WLBという考えを持って働く人たちが、永続的・持続的に利益をもたらす」という考え方が浸透しつつあるように思います。最近では社長も、プライベートの話や写真を社内報に載せるなどして、WLBを意識させようとしてくれていますね

—WLB推進において、貴社の特徴はどんなものがありますか
 ポジティブアクションをあえてやっていないことでしょうか。それが本当の意味でのダイバーシティだと思っています。また2007年以降に「くるみん」を取得しましたが、くるみんマーク欲しさに数値目標にとらわれて無理をするのではなく、結果として取得できれば良いというスタンスです。

—社員1人1人の働き方の本質に向き合っている姿勢が感じられます。数値にこだわらないとのことですが、社員の方にはどんなことを求めてWLBに取り組んでいらっしゃるのですか
 1日24時間という限られた時間は、「今日はライフ寄り、今日はワーク寄り」など、使い方は日々変わりますよね。そのため、自分自身が納得のいくバランスの取り方を主体的に考えながら働くことによって自分や家族、会社に良い影響が出る、だからWLBという概念は大切なのだと考えています。


【WLBに取り組む背景】
―そもそも、WLBに取り組むきっかけは何だったのでしょうか
 残業の多さが1番の理由です。1人当たり平均して月に20~30時間の残業をしていました。他社と比べて特別に多いというわけではないのですが、本社や研究所の残業が特に目立っていました。残業が多い働き方を続けても会社の活力にならないし、働く人が生き生きとしていないとこの会社の将来はないのではないかと危惧して、WLB向上プロジェクトを立ち上げました。
 しかし早く帰ろうと言っても、生産性を上げなければ本当の意味で会社の活力にはなりません。楽をしたいというわけではなく、心身ともに健康であってこそ良い仕事ができるはず。そのためにも労働時間を主体的・計画的に使って、うまく回していかなければならないという結論にたどり着いたんです。そうしたときに、「これってもしかしてWLBのことなんじゃないの?」と気がついたといった感じです。


【WLB推進の影響】
―WLBに取り組んで何か変わったことはありますか?
 まだ目に見える変化はないのですが、例えば本社で、月に2回だけ19時に消灯するという「早帰りDAY」を行っているのですが、その日は早く出社して、仕事中に無駄口をすることなく効率良く仕事をしているので驚きました。
 次の日に残業したら意味がないという意見もありますが、大事にしたいのは「メリハリ」なんです。今日はやる日、今日はやらない日と決めてやっていくことがバランスを取るには良いのではないかと思います。結果として総実労働時間は減りました。WLBといってもかけ声だけではなく、「早帰りDAY」といった取り組みや、ニーズに合った使いやすい制度を導入していくことで、会社の雰囲気や社員の心の持ちようは変わってくると思います。

―なぜ総実労働時間が減ったのでしょうか
 はっきりとした原因は分かりませんが、考えられる要因として2つが挙げられます。1つは上司の方々の業務指示がよい意味で簡素になったこと、もう1つは本社における36協定の上限時間の見直しです。
 前者は、とりあえず7割の出来にしておいて、あとは進めながら考えましょうというものです。以前では当たり前だった「(前と同じ資料でも)最初から作ってくれ」というような指示が、今では「前のものとベースは同じでいいから作ってくれ」などというように変わってきたようです。仕事をさせているのは上司なので、上司の指示でいくらでも労働時間が変わるということを実感しています。
 後者は、具体的に何をしたのかというと、年間の所定外労働時間を20時間減らしました。月に換算するとたったの2時間程度なのに「20時間も下がったから頑張らなくては」と思ってくれたのであれば、うれしいことです。

―スムーズに浸透しているようですが、何か工夫をされたのですか
 実は、WLB担当の主担当は中堅の男性管理職なんです。女性が担当するよりもより具体性が増して、現実的な話として捉えられたのだと思います。また、みんなが悩んでいる残業問題から入ったので、他人事として片付けられてしまうことがなかったのかもしれませんね。

―プロジェクトを大々的に行ったことによって、現場の意識が変わっていったのですね
 労働組合の協力もあってこそだと思います。「仕事をしたくないわけではなく、生産性を上げて、無駄なことをしたくないだけ」と、労働組合が労使協議の場ではっきりと言ってくれています。また、そう言われて行動に移してくれる役員にも感謝しています。


【風土作り】
―WLBを進める中で、こだわっていることは何かありますか
 このプロジェクトを、打ち上げ花火にしたくないということです。打ち上げて終わるイベントではなく、長い時間を掛けてじっくりと浸透させていきたいと考えています。それには具体的に制度を導入していくことが、「会社が変わった」と実感を持てる一番のきっかけになるだろうという考えから、様々な制度を整えているところです。
 また、我が社では、残業しているからWLBが取れていないとは考えていません。メリハリが肝心だと思うので、「今は頑張り時だから仕事させて!」という人に、無理強いはしません。

―そのような風土はもとからあったものなのですか
 振り返ってみると、「長時間会社にいる人が偉い、成果が出ないから会社にいる時間で勝負」という雰囲気が、なくはなかったと思います。しかし、本当はみんな早く帰りたいということが、このプロジェクトを立ち上げたことによって分かりました。今では「帰ります」、「有給休暇を取ります」と、言いやすい風土になりつつあるのではないでしょうか。

―WLB施策に対するニーズは、どのように汲み上げるのでしょうか
 労働組合との話し合いから施策の検討に入ることもありますが、人事部の日頃の職場対応で気づくこともありますし、各職場での上司と部下のやりとりの中から意見や要請をいただくこともあります。WLBという言葉が1人歩きをするよりも100倍良いことだなと感じています。WLBの取り組みはトップも是としているということを伝えつつ、その職場の課題をしっかり解決していくというやり方です。
 しかし、現場に丸投げというわけではなく、残業が増えていたり、育児休職などを取得する人が重なっても要員の面で困っているといえない部署には、人事部から声をかけるようにしています。また、労働組合とは、そういったバックアップ体制についても日頃から話し合っていますね。


【メンタルヘルスについて】
―メンタルヘルスに関する取組状況をお教え下さい
 年に1回行われている定期健康診断の後に、産業医もしくは保健師による全員面談があります。「異常なし」と出た人も必ず行います。
 定期健診結果の全員面談のほかに、長時間労働者を対象とした面談も行っています。具体的には、会社にいる時間が所定労働時間プラス月間累計50時間を超えると、保健スタッフからメールが来るという仕組みで、管理職も対象としています。簡単なセルフチェックをしてもらい、結果によっては個人面談をします。しかし心配なのは、鬱病の原因が必ずしも長時間労働だけではないということです。その対策として、気づきの機会を多くするために、昇格などの研修をする際には必ず産業医による1時間の講義をするようにしています。


【WLBを進めるための制度について】
―WLBに関する具体的な制度について教えて下さい
 育児休職、育児短時間勤務、子供看護休暇、看護休職、看護短時間勤務、有給休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇、再雇用制度など一通りの制度は揃えています。

―育児休職制度の一部有給化に至った理由は何ですか
 男性でも育児休職を取る人はいたのですが、子育ての意識が高い一部の人にとどまることなく、要員の多くを占める男性社員と職場が働き方を見直すきっかけとしてもらうための会社の強いメッセージとして、15日間を有給としました。

―休業者が出たときのフォロー体制はあるのですか
 同じチームで複数の社員が休むとなると、部署にとって切実な問題となってしまうので、多くの場合は派遣社員に来ていただいて短期的な補完をしています。その他では、管理職が肩代わりするなどしてその部署で補っています。万が一それでもまかなえない場合は、補充の人事異動をかけています。コストをかけてでも、仕事をきちんと回す策を考えるのが人事部の仕事と考えています。

―9月から再雇用制度が始まったようですが、何がきっかけだったのでしょうか
 育児関連の制度は整っているので、育児を理由に辞める人はほとんどいないんです。むしろ多かったのは、配偶者の転勤による退職でした。ですから、介護・看護、育児、配偶者の転勤というやむを得ない事情で退職せざるを得ない場合に限って、登録制・5年の期限で再雇用の対象とすることにしました。会社のことを良く分かっていて、ある程度の知識やスキルがあって、人柄を知っている人を再雇用するというのは、会社側にとってメリットは大きいですから。


【雇用形態の違いについて】
―非正社員に対応したWLB関連の制度はあるのでしょうか
 パートと嘱託の2つに分けて説明します。
 まずパートの特徴は文字通り労働時間が短く、工場の現場にしかいないということです。人数は300人ほどです。制度利用希望者が出たときには、法に則って運用しています。現場にいないと成り立たない雇用形態ですので、難しいところです。
 嘱託は30人程度なのですが、構成は定年を迎えた元正社員と専門性を持った人の2つに分かれます。嘱託の労働条件は、1年ごとの更新という点以外では基本的に正社員と同じです。労働契約に期限があるため、そのまま適用出来ないWLB関係の制度もあるので、その辺りの物理的なものを加味しながら、就業規則としてまとめるのは苦労しました。


【これからについて】
―今後の課題は何かありますか
 男性の育児休暇最低1週間以上の取得率100%、有給休暇の未行使分ゼロ、多様な働き方の提案の3つです。こういったことを論議経過も公開し、上手に告知をして可視化させることによって、「会社は本気なんだな」と思わせることが目標です。

―多様な働き方とは、具体的にどんなことを現在考えているのですか
 具体的に言うと、在宅勤務と裁量労働の導入です。やはり、制度に落としていくのが1番分かりやすいと思うので、力を入れていきたいです。

-在宅勤務制度導入について進捗状況など、詳しくお願いします
 セキュリティの問題はクリアしていますし、今必要だと言われればすぐに導入できる体制まで整っています。難しいのは、何のために導入するかという点です。通勤時間の削減なのか、従業員の自立のためなのか、あるいは家庭的責任なのか。その中でも介護も関与してくる、家庭的責任が大きいと想定をして進めているところです。しかし、在宅勤務制度の1番のネックは、直接のコミュニケーションが取れないということなので、週に1~2日までと考えています。工場の現場以外であれば大抵の仕事は導入可能ですし、この先インフルエンザの問題が深刻化すると家から出られないということも起こりうるので、是非とも導入したいですね。

―有給休暇の未行使分ゼロを目標としていますが、ゼロにならない弊害となっているものがあるのでしょうか
 会社に5,6年も働いていると、有給休暇はたくさん溜まってきてしまうんです。使おうとしないと使えないものだと私自身も実感しています。しかし、有給休暇はもともと会社が労働者に対して与えているものだから、自由に使っていいものです。いかに使ってもらえるかを考えるのが人事部の力の見せ所ですね。
 あとは、有給休暇の取得率はカレンダーの並びにすごく影響されます。例えば月~水が休みで、木・金が営業日であれば有給休暇を取っても良いかなと考えるのですが、これが3日となると心理的に取りにくいのです。ですから、この課題はカレンダーも無視できないと思っています。

―最後に、政府や社会に求めることはありますか
 個人的にですが、今後は子どもよりも介護に支援を厚くして欲しいと感じています。育児は未来があってとても明るいけれど、介護というのは終わりが見えなくて大変で、性別、既婚・未婚の別を問わず誰にでも当てはまることであり、根の深い問題だと思います。


—本日は貴重なお話をありがとうございました


【インタビューを終えて】
 今回3社の企業を訪問させて頂きましたが、WLBのとらえ方や位置付けは企業ごとに違うことを、肌で感じました。どんなにWLBを推進している企業であっても、私たちが知り得る情報はごく一部であり「社風がいかにWLBを象っているのか」ということだと思いました。
 私がとりまとめを担当させて頂いた 味の素株式会社 は、厚生労働省の認定である「くるみんマーク」を、名刺やパンフレットに誇張することはありませんでした。そこにはWLBという考え方が当たり前に根付いている現れのようで、印象深かったです。また、制度や数値に拘りを持たずに、あくまでも社員1人1人が働き易い仕組みや風土作りに徹している点が、大変素晴らしく思えました。
 制度は必要であると感じたら全力で取り組み、作ったら最後まで責任を持つ。数値というものは、あくまでも危険察知の手段とし、目標ではないという考え方は終始一貫していました。それから、学生生活では聞くことの出来ない労働組合や人事部の仕組みについてもうかがうことができ、お陰で、働くということを具体的にイメージすることも出来ました。またインタビュー中で社員の方のプライベートの話題にも触れていただいた時には、職務を円滑に進めるためには、時には上司と部下の隔たりなく、社員同士が仲睦まじい関係も大切だと思いました。所々でうかがえるこうした光景を拝見でき、社会に出ることへの緊張も解け、興味も強くなりました。
 今回お話をうかがった栢原様は、「自分もHappy、家族もHappy、会社もHappy」という言葉を何度も口にされていらっしゃいました。例えば自分が良い働きをしたと思ってみても、家族や会社に負担を感じるものでは、良い働きとは言えないようにも思えます。そのバランスを個人が主体的に考えて取る=個人と会社のサイクルがうまく回っている状態こそ、味の素が目指すものであり、本当の意味でのWLBなのかも知れないと感じられたインタビューでした。

【レポート作成者】  法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ3年 田代 涼子

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