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大日本印刷株式会社(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2009)
~「ワーク・ライフ・バランス」(以下WLB)を目的に施策を実施しているわけではなく、取り組んでいることが結果的にWLBになると考えている大日本印刷株式会社。今回は労務部の本田さん、稲原さん、市谷事業部の川村さん、若狹さんにお話をお伺いしました。~
【企業概要】
| 印刷業 | |
| 1876年 | |
| 9,852名(単体) |
【ワーク・ライフ・バランスについて】
―御社ではワーク・ライフ・バランスをどのようにとらえていますか。
そもそも我々はワーク・ライフ・バランス(以下WLB)を、明確な方向性として掲げているのではなく、結果論としてとらえています。したがって、WLBを実現するために何かをするのではなく、社員一人ひとりが「ありたい働き方」を実現する先に、WLBに近いものがあると考えています。人事制度に関しては、「社員一人ひとりのこころ豊かな生活」と「大日本印刷(DNPグループ)全体の持続的な成長・発展」の2つの軸を目指して何ができるかということで、様々な施策を行っています。
―特にWLBを目的に取り組みをしているというわけではないということですね。ではその「ありたい働き方」のためにどのようなことをしているのでしょうか。
一番着目しているのが、「時間」です。「時間資源有効活用プロジェクト」という名称で労使の取組みを進めています。この活動は2004年から展開してきていますが、2008年の経済危機を受け、働き方や仕事の中身自体を根本的に見つめなおす必要が出てきました。
「働き方の変革」をテーマとして、全てをゼロから見直すようになりましたね。2009年の4月から、事業部別(グループ会社も含め)にアクションプログラムを掲げ、たとえば所定内労働時間で仕事を達成することを目標にするなどして、それぞれが具体的な施策を考え、取り組んでいます。さまざまな制度を導入しても、ベースにあるのは「働き方」であり、この点が非常に重要であると考えています。
―次に、施策実施による効果、意義についてお聞かせ下さい。
先ほども触れましたが、「DNPグループの持続的な成長・発展」と「社員一人ひとりのこころ豊かな生活」が実現できれば、それが意義に繫がると考えています。
また、生産性の向上や強靭な企業体質の構築などの効果もあります。それに加え、企業リスクの低減や社員のモチベーションの向上、働きがいなどにも効果があると考えています。女性社員の定着も大きな効果の1つですね。
【働き方の変革について】
―「働き方の変革」ということですが、具体的にどのようなことを行っていますか。
先ほども触れましたが、1つは労使が一体となって時間資源を有効に活用していくためのプロジェクト活動を行っています。具体的には2009-11年の3カ年計画をたて、所定外労働時間削減ための3ヵ年の目標設定、有給休暇取得促進、生産性をどう高めていけば良いかなどを組織的に考えています。
また、2つ目に社員一人ひとりが日々の業務を見直すとともに、組織を挙げて業務フローを変革することで高い付加価値を生み出していくという「業務効率化活動」も進めています。
こうした活動を進めるなかで、「ありたい働き方」を個人個人が描き、それを実現していこうとする意志をもち、互いに認め合う風土が必要だと思います。
―実際に、市谷事業部の現場では効果は出ていますか。
「働き方の変革」として、具体的な方針や所定外労働などの水準が明確になったので、一人ひとりがしっかりと仕事のやり方や進め方を考えることができるようになりましたね。今までは、与えられて仕事をしているという意識もあったと思いますが、変革を進めていくことで、自ら進んで仕事をするという、意識レベルでの効果も出ています。所定内の労働時間におさめるにはどうしたら良いか、アイデアや要望を汲み取るアンケートのようなものも実施しました。
その一方で、生計を立てるために残業を望む人もいます。それに対しては、残業することで給与が増えるのではなく、限られた時間の中でより高い役割・成果を発揮できれば給与にも反映させる方針を明確化し、全体の所定外労働時間が減少すればその財源の一部を基本賃金に振り向けることによって基本賃金の充実に結びつけていきたいと思っています。
―なるほど。では労働時間制度の導入にあたり工夫した点はありますか。
当社では営業、スタッフ、研究、企画職など様々な業務があるのですが、その業務に合った勤務形態を導入するという点について慎重に検討しました。
例えば、営業、スタッフ部門なら業務内容に応じ、フレックスタイム制度や企画業務型裁量労働制度なども適用しています。技術・研究職は専門業務型裁量労働制度を取り入れています。また、製造現場は24時間工場が稼働しているので、それに合った勤務体制・シフト勤務などを取り入れています。
【WLB関連制度と制度利用状況】
―それでは次に、WLBに関する様々な制度の内容や利用状況について教えてください。
WLBに関する支援策としては、「育児休業」、「介護休業」を法定以上の水準にしています。他にも休業取得者に対する「職場復帰プログラム」(長期休業取得者の円滑な職場復帰のための支援)、「育児・介護のための短時間勤務制度」(通常8時間勤務を2時間まで短縮可能)、 「ライフサポート特別休暇」などがあります。
また、2009年1月には、産休・育児休業者を対象とした「職場復帰プログラム」の一環として、『カンガルーの会』と称して職場復帰セミナーを実施しました。会の当日はキャリア・アドバイザーによる講演とグループワークが行われ、56名が子育てと仕事の両立における不安や周囲とのコミュニケーションの方法などについて学び、話し合いました。
育児休業については、2008年度、1年間で109名(うち1名が男性) 介護休業は4名(うち1名が男性、女性3名のうち1名がパート・アルバイト社員)が取得しました。「短時間勤務制度」を利用しているのは平均的に年間60名程度です。
―休業制度などの利用にあたって、職場での対応はどのようにされているのですか。
育児休業でいえば、妊娠が分かった時点で上司に相談し、育児休業をどのくらい利用して職場復帰するかなど、かなり早い段階から業務遂行を意識して行動するようになっています。
―休業を取得した人の業務のカバーはどのようにしていますか。
例えば、印刷作業の現場では、以前はその期間派遣社員が代替していましたが、現在は前工程の製版職場の人たちに支援してもらうような形をとっています。そうすることで、休業している人たちの、自分のいない間に仕事がなくなってしまうのでは?という不安も解消できると考えています。
―制度利用について、利用しない人から見て不公平感などはないのでしょうか。
当社では、イントラネットで「ライフ&キャリア」という個人のライフイベントごとに利用できる制度をまとめた情報を提供しており、全社員が確認できるようになっています。このため、制度の意義や目的は社員の中にかなり浸透しており、皆、制度については理解していると思います。現在は必要な社員であれば、問題なくほとんどの社員が制度を利用しています。
私たちが制度設計するうえでの原則としているのが、利用したい人が利用できる環境をつくり、選択できる制度を設けていこうということです。
―では男性の育児・介護休業の利用はどのようになっていますか。
男性の育児休業利用は、年に1人ぐらいずつですね。利用したいという人はいると思うのですが、実際なかなかとりにくいという部分があると思います。先ほどお話しした「カンガルーの会」として職場復帰セミナーを開催しているのですが、去年からは配偶者の方と一緒に参加してくださいというように促し、共働きの男性社員(社外の方も参加しています。)にも意識をもってもらえるようにしています。
また、男性の制度利用促進に関して、社内報での告知や、周りの男性に声をかけたりしていますが、利用が進んでいないのが現状です。男性の制度利用については、「とりたいときにとれる」風土をつくっていくことが重要であると考えています。
―男性の育児・介護休業は現場ではどのように受け止められているのでしょうか。
育児休業を男性が取得するという発想は、あまりないかもしれないですね。他方で、男性の管理職層は介護休業の問題に直面する年代であり、身近に感じていると思います。特に介護が必要な期間は長くなることが多いので、介護を理由に退職してしまうという人が少なからずいます。会社の制度を利用して就業を続けるという風土を作るのが今後の課題です。
―それはどのように定着させていくのですか。
例えば、社内報で社員の働き方を紹介する、育児や介護をしている人がどのような働き方をしているのかを知ってもらう、あるいは制度の内容などを掲載する、などにより制度利用を身近に感じてもらうようにしています。
【メンタルヘルスに関する取組内容】
―ここまではWLBに関する働き方や制度についてお話を伺ってきました。私たちは、これまでのWLBについての研究や企業インタビューを通じて、メンタルヘルスへの取り組みにとくに関心をもつようになりました。仕事と私生活のバランスが崩れてしまうことで、メンタル面での問題が出てくることは多いと思います。御社はメンタルヘルスに関して総合的な取組をしているということを雑誌などで拝見しましたが、メンタルヘルスに関する取組についてお聞かせください。
弊社では、働き方を変えていくことで、心身の健康面にもよい影響が出てくると考えています。メンタルヘルスの問題についても、何か問題があったからというよりも、予防という視点から取り組んできました。
我々はメンタルへルスへの問題を、1次予防、2次予防、3次予防に分けて考えています。1次予防は病気にならないようにという啓蒙、2次予防は実際病気になった人をどうやって医療につないでいくか、3次予防は、再発しないためにはどうしたら良いかと、それぞれ段階があります。
1次予防では、ハンドブックやオリジナルDVDを各職場に配布したり、e-ラ-ニングを使用し、予防のための教育・啓蒙を行っています。オリジナルDVDには、座ったまま簡単にできるリラックス体操などの内容も含まれています。また、セルフケアの一環として、自分自身の生活や心身の状態を知るためのライフスタイル&ストレスチェックを定期的に実施しています。
2次予防としては、東京・大阪の診療所に専門医を配置しています。また、社内では相談しにくい人のために、社外相談窓口も設置しています。電話相談やカウンセリングのほかメールでの対応も可能です。
3次予防については、メンタルヘルスの問題は再発する人が少なからずいるので、柔軟な対応が必要になります。例えば、一定期間休職した場合は、「リハビリ休職制度」として1週間は半日勤務など軽減された仕事から始め、2ヶ月後には休職前と同じようなレベルまでもっていくといった形でサポートしています。
―いつ頃からこのようなメンタルヘルス対策に取り組んでいるのでしょうか。
十数年前から専門医とともに取り組んできています。社内にメンタルヘルスの問題を専門に扱う「こころの健康づくり推進事務局」を設置したのが2003年です。
―ここ数年で一般にメンタルヘルスの問題が注目されるようになってきましたが、2次予防、3次予防の対象の社員が増えているという実感はありますか。
急激に増えているという実感はないですね。現在は軽い状態のときに把握できるようになったので、重い状態の社員は減ってきていると思います。また、管理職のメンタルヘルスへの意識も高まっています。
相談窓口も機能しています。以前であれば、職場復帰できずに休職期間満了で退職したようなケースも、現在は早い時期に専門医につなぐことによって、軽い症状の時点で対応ができるために、数ヶ月休んで復帰するという事例が増えています。
―メンタルヘルスに関して何か課題はありますか。
働く人の価値観が多様化し、一口に不調者といってもさまざまなタイプ見られます。今までの対応だけでなく、新しいアプローチの仕方も必要だと感じています。
対応の仕方や施策については、3人の専門医の意見を参考にしているほか、他社の方との交流の機会を活かして、新たなものを吸収したりしています。
―専門医の方は常駐されているのですか。
常駐ではないです。基本的に市谷は週に3回、大阪は週に1回来ていただいています。ただし、突発的な相談事が起きた場合には、先生たちに直接つなぐこともできます。
【今後の課題】
―なるほど。たいへん詳しくお話ししていただいてありがとうございました。
それでは最後に、WLBの取組について、今後の課題を教えてください。
時間資源の観点から言えば、印刷会社の弊社では、雑誌をはじめとするものづくりの現場が24時間稼動しているので、交替制勤務の在り方についてきちんと考えていかなければなりません。
また、印刷業界は長時間労働の企業風土があると思います。所定外労働時間を削減すると、時間的なゆとりが増えて喜ぶ社員がいる一方で、賃金が減ってしまうという不満の声もあります。会社から取組の意義についてしっかりとメッセージを発信するとともに、所定内で働くことを前提とした処遇の在り方を検討することが鍵となると思います。
一番難しい点は、所定外労働時間の縮減をしつつ、いかに企業が持続的発展できる成果を上げられるかということです。
―最後に、政府や社会に求めることは何かありますか。
私たちは「働き方の変革」を進めていますが、私たちの会社だけではもちろん限界があるので、他の方たちにも同じような意識があれば、win-winの関係が築け、非常に進めやすくなると思います。
―今回のお話を聞いて、今まで回ってきた企業とは違い、WLBを意識した特別な取組を行っていないということが逆に新鮮でした。
あまり特別な制度に力をいれてしまうと、それに関係ない人の不満が生じる可能性はあります。全社員の中でバランスがとれた施策が必要だと考えています。
―本日は私たちのために貴重な時間を割いていただきき、ありがとうございました。
【感想】
まず、労務部の方だけでなくメンタルヘルス担当の方、市谷事業部の現場の方々も紹介して頂いたので、取組み内容などだけでなくリアルな声が聞けたことは非常に参考になりました。
印象に残ったのは、「ワーク・ライフ・バランスをテーマとして掲げているのではなく、取り組んでいることが結果的にワーク・ライフ・バランスになっている」というスタンスです。ワーク・ライフ・バランスを実現するために何かをするのでは、少し本末転倒になってしまう部分もあると思いました。
印刷業界ということで、現場の時間管理が非常に大変だということがよく伝わってきました。社員の方は時間に追われるという面があると思うので、そうした業界で働き方の改革に取り組んでいる真剣さが伝わってきました。
今回のインタビューを通じ、制度はもちろん、それ以上に、これから就職する私は「働くということ」「生きるということ」を考えさせられました。大日本印刷の方も言っていましたが、自分も何をすればワーク・ライフ・バランスになるのか分からないし、そこには明確な基準は存在しないと思います。会社という枠の中でいかに自分らしく生きられるか、そういうところに答えはあると思います。
【レポート作成者】
法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ4年 佐々木 暖











