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イベント・取り組み詳細情報

日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2009)


日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社

〜システム開発を行う日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社の人事部労政グループ部長代理 井上正人さん、人事部労政グループ主任 鵜原靖夫さん、広報・宣伝部広報IRグループ部長代理 高野美樹さんにお話をうかがいました〜



【企業概要】

事業内容
 システム開発、サービス、プロダクト&パッケージ、情報処理機器
設立年
 1970年
従業員数
 7,151名(連結)、5283名(単独) 女性管理職比率 1.9%

【ワーク・ライフ・バランスを展開する背景】
―貴社でワーク・ライフ・バランスへの取組が行われた経緯についてお聞かせください
 情報サービス産業は、一般的に知識集約型産業で、技術革新が速く、ビジネス形態もどんどん新しいものがうまれてきて、開発期間も短期化している、という非常にめまぐるしい流れのなかにある産業です。
 このようなビジネス環境を背景に、職場の問題としては長時間残業が挙げられます。社員が頑張れば、どんどん仕事ができるわけですから、ついつい残業が長時間になってしまうことがあります。また、納期が短かったり、新しい技術がうまれてくるため、日ごろから勉強しなければならない状況です。そのため、心身両面においてプレッシャーを感じることも少なくないと言えるかもしれません。
 この業界はもともと男性中心という色合いが濃かったのですが、先ほど申し上げたようにプレッシャーが高い仕事内容なので、なかなか女性が働き続けられないという問題がありました。独身のころは頑張れるけれども、結婚・出産・育児と仕事を両立させていくことには不安を覚える女性が多くいました。そもそも女性が入らないのに、その女性が働き続けられないという状況でした。
 長時間残業については、この業界は新3K職場=「きつい」「厳しい」「帰れない」、などと言われることもありますが、実際は平均の残業時間は他産業とさほど変わりません。しかし、問題なのは長時間残業が一部の人に偏って発生しているということです。これは、業務特性により労働時間削減が難しい、プロジェクトのキーマンに作業が集中してしまっているということを示しています。これに対する問題意識は皆持っていました。
 心身両面における健康問題の原因としては、①納期に追われるプレッシャー、②システムに障害が起きた場合、徹夜もありうる過重労働、③チームワークでの仕事が基本であるため、自分の都合では仕事ができないこと、④銀行などの顧客先に常駐して、ほとんど本社に居ない社員もいて、人間関係が希薄になってしまうこと、⑤急激な技術革新による将来への漠然とした不安など、様々なものが挙げられます。
 また、従業員に占める女性比率の低さは、女性が十分に活躍しにくい環境につながると考えています。
 今までに述べた「長時間残業問題」「心身両面における健康問題」「女性就労比率の低さ」という問題の解決にはワーク・ライフ・バランス(以下WLB)のアプローチが必須という認識でした。

―貴社としてはなにか具体的なきっかけがあったのですか
 取組を始める一番のきっかけとなったのは、ITバブル崩壊後の2003・2004年の状況でした。多少難しい案件でも、思い切って仕事をとりに行くという方針に舵をきったときに、あちこちの大きなプロジェクトでシステムが動かないとか、作り終わらないという状況が同時多発的に起こってしまいました。そうすると力技で何とかしようと、あちこちのプロジェクトでたくさんの人が長時間残業をするようになりました。結果的にはシステム開発というのは人件費のかたまりですから、人件費の増加がもろに経営を圧迫してしまい、大きな赤字を出しました。このような状況を目の当たりにした優秀なエンジニアが、若い人から順にどんどん辞めていってしまうという負のスパイラルに陥ってしまいました。
 このような状況を打破するには、「抜本的な改革」が必要だという認識を経営者自らが持つようになりました。

—WLBの位置づけはどのようなものですか
 当社の場合、WLBは単純な福利厚生ではなくて、ダイバーシティを高めて結果的に企業の競争力を高める手段という観点で導入しています。
 これまでは、男性中心の職場でも、お客さんに言われたオーダーを確実に、納期を守って納めていればなんとかやっていけました。それは、これまでの仕事はお客様の要求が比較的明確であったからです。しかし、これからはお客様企業も競争が厳しくなり、経営課題が複雑化していること、競争も国内だけでなく国際的な競争となっていることにより、当社もお客様の様々なニーズに対応することが求められています。そもそも一面的な見方だけでは解決できないような課題に向かうことを要求されることも多くなっていきます。
 それに対処するためには、いろいろな考えを持ち多様な発想ができる人材が職場にいなければなりません。つまり、いろいろな働き方をする人が、職場できちんと力を発揮できるようなインフラを作っていく必要があります。このことは、WLB施策と密接に関係しているといえます。
 そもそも当社の経営資源は何かというと、設備などはほとんどなくて、人材がすべてです。ひとりひとりの力と職場環境を掛け合わせたものを「社員力」と考えて、社員力が最大化されるような職場作りが求められます。具体的には「やりがいの感じられる職場作り」「人財の育成」「WLBの推進」が必要と考えます。
 WLBを進めるにあたっては、先ほどの「WLBを経営戦略と位置づけるポリシー」に加え、経営トップの明確な意思表示がありました。

―トップの意思表示とはどのようなものですか
①経営トップが本気で取り組む姿勢を示すこと
②社会のルールに会社が対応すること
③社員の声に耳を傾けること
④社員の健康管理が第一
⑤労働時間の削減が必須
の5点を明確なメッセージとして発信しました。また、あらゆる機会を捉え、具体的に実践していったことも重要なポイントです。


【制度化の進め方、施策内容】
―制度作りはどのように進められましたか
 ここが当社の特徴だといえるのですが、このような考えをトップダウンでおろした後に、ボトムアップで具体的なアイデアをだすいくつかのワーキンググループ(以下WG)を作って、社員からの意見を募りました。具体的には、女性のWG、若手社員のWG、部長・本部長からなるシニアWGを作って制度化を検討しました。

―それではまず両立支援の具体的な制度をお教えください
 両立支援施策については、女性WGで議論しました。
 これまで、小学校入学前までが短時間勤務(7.75時間から6時間に時間短縮)の対象者というものでした。しかし、実際に話を聞いてみると、PTAへの参加、授業参観など小学校に入ってからの方が親の出番が多いことがわかりました。そのため、対象者を小学校入学までから小学校卒業までに適用拡大し、時間の短縮幅も4・5・6・7時間から選べるようにしました。
 また、このころ他社で、「子どもが生まれたら100万円出します」など目を惹く制度を入れていたこともあって、「当社にも派手なものはいりませんか」と社員に尋ねてみました。すると、「過度な金銭面での補助は周りの目も気になって、肩身も狭くなってやりづらい。そうではなくて、ソフトウェアの仕事はどうしても残業が発生してしまうので、延長保育になった場合の補助をしてもらうほうがいい」という意見があがりました。そのため、半額を補助する延長保育料補助制度を新設しました。
 さらに、育児休職はだいたい1年~1年半なので、その期間中会社のことがまったくわからず、不安を抱える社員がいることがWGの意見交換で初めてわかりました。この課題をITインフラを用いて解決できないかを検討しました。そこで、育児休職をする社員にセキュリティPCを貸し出して、イントラネットやメールを見られるようにしました。同時に、両立支援ホームページを立ち上げ、休職から復職にかけてどのような手続きがあるのかなどをわかるようにしました。またガイドブックを作成し、配布しました。
 そして、これらの施策がなじんできた頃にアンケートを実施しました。すると、53.2%の社員が「以前より制度を利用しやすい雰囲気になった」と感じていることがわかり、一定の成果はあったといえます。ただ、もう半分の社員はそう思っていないということも事実です。その理由を聞いてみると、「周りに利用者がいない」、「育児などを配慮した業務量調整ができていない」などの声がありました。また、「制度がより有効に利用されるためには、どんな改善が必要か」という問いへの回答として、「男性、特に管理職に制度を利用してほしい」などがありました。
 これらアンケートの結果から、誰もがWLBを実感できるようにするには、「女性に偏らない制度拡充」「総労働時間の一層の縮減」「職場ごとの温度差の解消」という3つの課題があることがわかりました。

―女性で育児休職をとって復職しているのはどのくらいですか。また業務代替はどうされているのでしょうか
 育児休職を取得している女性は常時40名ほどです。基本的に全員が復職します。育児休職者の業務の代替の仕方はさまざまです。正社員を補充するというよりもパートナー会社にお願いして派遣の形で補充してもらうことが多いです。

―プロジェクトマネージャー(以下PM)も短時間勤務はできますか
 そこの制約はしていませんが取得者はいません。

―実際にとっているPMの方はいらっしゃいますか
 サブリーダーぐらいまででしたらいます。PMが常に残業しているというわけではありませんが、何か問題が起こったときにそのプロジェクトの責任者として即、対応する必要があります。この課題に踏み込まないと真のWLBは確立できないと思っていますが、例えばPMの代理となるような人材を育成するとか、そういった総合的な対策が必要で、そこはちょっと悩ましいですし、時間が必要ですね。


【在宅勤務制度】
―在宅勤務制度を導入したとうかがったのですが、詳しくお聞かせください
 女性WGで、在宅勤務制度導入についての議論がなされました。そこでは、リーダーになっていると家で仕事をするのはナンセンスだという意味で必要ないということになりました。入れてもおそらく使い切れないだろうと。
 ただ一方で、昔は仕事を家に持ち帰ることができたのに今はできなくて不便だという声もあって、そこは50:50でした。一旦そこまでの議論で終わっていたのですが、社内のアンケートで、「いろんな人がWLBを実感できなきゃだめだよね」という声を受けて、やはり在宅制度を導入して、男性も含めて働きやすくする必要があるのではないかということになりました。
 具体的には去年1年間かけてテストを行って、今年6月から、本格的にスタートしました。現在は150人が利用中です。この制度は少なからずお金がかかることなので、「希望者の中から、きちんと在宅ができる人を選んでください」と管理者にお願いをしています。また、成果が得られないと話になりませんし、家で仕事をするということはチームに負担をかけることになるので、それを配慮できる人に限定しています。

―この在宅制度は週1回など部分的なものですか
 この在宅制度は2種類のパターンを持っていて、裁量制勤務者(管理職)以上を対象とするものと育児・介護要件該当者対象のものがあります。裁量制勤務者(管理職)以上を対象とする制度の目的は生産性の向上です。内容としては平日フルの在宅は禁止していて、原則出社することが必要です。
 育児要件該当者向けの制度の目的は両立支援です。内容は月に25時間の在宅時間を認めており、場合によっては3日間連続で在宅勤務ということも可能です。

―女性PMで在宅勤務の方はいますか
 現実として、女性に限らずPMは難しいと思います。プロジェクトメンバのマネジメントが主たる職務であり、PMが家に居て、メンバーの顔を見ないでマネジメントができるかというとかなり難しいと思います。

―在宅勤務の難しい点はどのようなところですか
 在宅勤務は最近色んなところで話題になっていて、当社が導入した当時もマスコミから注目されました。しかし、企業の立場からすると問題点が3つあります。
 第1点は、対面と同じようなコミュニケーションはとれないということです。仕事をするうえで、一人でできる仕事もある程度ありますが、ほとんどは共同作業です。これはIT業界に関わらずどこでも一緒です。自宅にいてそれができるかどうか、ということ。
 第2点は労務管理の困難さです。労働基準法上、給与は労働時間で払わなければいけないという制約があります。自宅で何時間仕事をしたかというのは結局自己申告の世界でしかありませんから、悪意をもって運用しようと思えば、それはできてしまうわけで、そこをどうするかということ。
 それから3点目は情報漏洩の問題です。家で仕事をすることで、会社の重要な情報が外に漏れる可能性がある。これら3つをクリアしないと在宅勤務は成り立ちません。
 そこで、コミュニケーションの問題でいうと、365日24時間フルでの在宅は禁止しています。基本的に、両立型を除き毎日一回は出社していただいて、必要なコミュニケーションをとったうえで、自宅で作業をしてもらう。それから労務管理の問題では、やりたい人にやらせるのではなくて、会社がさせてもいいと判断した人にさせるということです。信頼できる人にやってもらうということです。情報漏洩の問題に関しては、ここは当社は製品として出している商品があるので、それを使っています。
 世間で騒がれているほど在宅勤務が効果的にできているかというと、ちょっとまだわからない状態です。対象者もそれほど多くないですし、使っている頻度も週に一回ほどなので、以前の風呂敷残業の感覚で使われている可能性もあります。それが世の中の実態だと思います。
 私も実際使っていますが、夜寝る前にメールチェックができることが、メリットとしては大きいかなと思っています。

―在宅勤務でないと自宅ではメールチェックができないのですか
 基本的にはそうです。

―育児の範囲は
 小学校卒業までの子どもさんがいる社員全員です。介護でも利用できます。


【残業縮減の取組】
―次に残業縮減についてお聞かせください
 アプローチとしては、「とにかく残業はするな」というトップの考えをおろして、具体的なやり方は職場ごとに考えてもらうという形をとりました。まず一番効果があったのは、会社の中で一番強い決定権を持っている経営会議で、長時間残業者の名簿(個人名プラス上長名)を公表し、場合によっては社長が叱るということをやりました。これにより、以前では「仕方ない、頑張れ」で終わっていたのが、作業量や人員配置の見直しが行われる等、管理者の意識改革につながりました。
 さらに、21時に退社すれば、少なくともその日のうちに寝られるだろうという考えから、21時以降原則残業禁止と決めて、21時一斉消灯を実施しました。もし21時以降も残業をする場合には、上長の承認や台帳に書くなどのルールを決めました。一斉消灯した後に、人事部が「上長に承認を得ましたか」などと確認しながら、見回りをしました。一時期は毎週やっていた時期もありました。
 また、IT業界はプロジェクト単位に仕事が進んでいくのですが、複数のプロジェクトが重なっていて、ひとつのプロジェクトが終わっても息がつけないという状況がありました。これでは勉強もできなければ、リフレッシュもできません。このような声が若手WGから挙がったので、「大きなプロジェクトが終わったらプロジェクト休暇をとりましょう」ということにしました。実際には年休なのですが、名目を設けることで、繁閑に合わせ休みを取りやすくする工夫をしました。

―プロジェクト休暇はどのぐらいとるものですか
 年休2日以上を土日とつなげてとる方が多いです。忙しいプロジェクトでは、「残業をする代わりに、プロジェクト休暇は必ずとる」という約束を労働組合とするケースもあります。
 ただ、プロジェクト休暇をとりなさいと言っていますが、今はひとつひとつのシステム開発期間が非常に短くて、プロジェクトとプロジェクトが重なっていることが多く、明確に終わりがわからないという現状もあります。休暇をなかなか取れないという実態もあります。

―Under2050の取組についてお教えください
 去年の下期から展開しているのですが、「年間の総労働時間を削減していこう」というコンセプトで、06年度に2100時間あったものを、2008年度には50時間減の2050時間にまで減らすというものです。なぜ総労働時間なのかというと、「ただ単に残業するな」と言ってみても、プロジェクトの状況によってはせざるを得ないこともあります。逆に、残業をたくさんやっても、年休や代休をきちんと取れれば、トータルでは労働時間が短いことになるから結果としてはいい。「やるときはやる。けれども、休むときはちゃんと休む」というほうが職場としても楽だろうと判断したためです。このような考えから総労働時間という概念を入れました。
 毎月2時間残業を削減し、今までよりも一日多く休暇を取れば、2050時間は達成できる計算です。これをだんだん引き下げていって、2010年には2000時間以下を目標としています。IT業界の平均が2067時間ですから、少なくともこの水準はクリアしようと考えました。今は全体の景況感が落ちていますので、「追い風参考」ではあるのですが、結果的には、2008年は目標を大きく上回って達成できました。今年度は目標を前倒しして、年度の頭には「Under2000」を目標にしましたが、「さらに50時間目標を上積みして1950間以下にしましょう」ということで、目標を上から書き直したポスターをあちこちに貼っています。特に「Under2050」のときには、いろいろとキャンペーン的なことをたくさんやりました。

―キャンペーンではどのようなことを行ったのですか
 ただ単に「長時間労働をやめなさい」と訴えるのではなくて、そういった雰囲気を作っていくことを考えました。長時間労働の者には、本人と上長に「今はこんな状況ですよ。減らしましょうよ。」というようなフォローをしました。また、もともと毎週水曜日は定時一斉退勤日だったのですが、思い切って18時に一斉自動消灯をしました。そして、帰る雰囲気を作るために音楽も流しました。今まで、社内で歌詞つきの音楽が流れることはなかったのですが、ビートルズのカバー曲を流したりしました。あとは、給料日・賞与支給日も定時退勤日に設定し、通用口に看板を出すなどして、雰囲気作りの工夫をしました。

―休暇取得を強化する制度は
 休暇促進についても、年休低取得者へのフォロー頻度をあげた他、さきほどプロジェクト休暇というのがありましたが、「ダイバーシティ年休」というものも作りました。いろんなご本人の都合によって休みたいタイミングがあると思います。例えば結婚記念日とか家族の誕生日とか。そんなときに、年休の理由を言わなければいけないとなると年休が取りづらい、という雰囲気がありました。そこで、まとめて「ダイバーシティ年休」として、年休の理由を言わなくてもよくしました。これも名目を作って使いやすくしているという類のものなのですが、特に管理職の方も、ダイバーシティ年休という名目で休みを取ってください、とPRしました。

―残業が多い部署に人員を配置したりすることもあるのですか
 ありますけど、現実問題としてIT業界は人員配置が即残業縮減につながるかというとそれほど単純ではありません。どうしても知識や経験を持つキーマンに仕事が集中してしまうということがあります。その知識というのは技術的な知識とマネジメントの知識とがあります。新しく人員を配置しても、お客様の業務に関わる技術的な知識については、最初からその場にいないとわからないということがかなりありますし、さらにゼロから教えるのには1~2ヶ月かかってしまいます。そこが一番問題かもしれません。
 人を投入したときには、だれでもできるような仕事をキーマンからひたすらもぎとって、1時間でも残業を減らします。極端な場合、キーマンがその日のポイントを提示して、問題を解決して帰ってもらうくらいの措置を取ります。  ただ、トラブルが発生して応援部隊が行っても、結局応援部隊は何もわからないので、そこにいることはいるが、何もしていないといったこともままあります。帰るとお客様に怒られますしね(笑)。そこが悩ましいですね。これはIT業界の特徴かもしれません。
 今は「キーマンをつくるな」と指導しています。

―残業が少ない上司への評価などはありますか
 制度として明確にあるわけではありません。目標管理のなかで、「部下の育成」や「コストパフォーマンス」という項目があるので、そこで加味するということでしょうね。
 制度化というところまではいかないのですが、効率よくハイパフォーマンスを出した職場を褒め称えるという雰囲気を作りたいと思っています。まだ実現はできていませんが、優秀なプロジェクトを社報で紹介するのはどうか、という議論はあります。


【ヘルスケア】
―ヘルスケアについてはどうですか
 このなかでかなり大きいのが、「就業制限」だと思います。フィジカル的に厳しい脳梗塞や、心筋梗塞とかそういったリスクはベテランになればなるほど高まっていきます。健康診断や人間ドックで出ている数値を見て、産業医が「この数値は明らかに危ないから、残業禁止とか、就業禁止」と強引にやってしまう。それで、社員の健康管理をしていくことにしました。そのための実際の制度を実施しました。
 あとは、メンタルでダメージを受けて、実際に休んでしまった方がスムースに復職できるようにするためのプログラムを導入しています。実際には面談を繰り返し行ったり、復職前にリハビリ勤務を行うといった内容です。
 さらに、健康管理の一環として、「健康は大事だよ」という雰囲気をつくるために、産業医講話を階層別に実施したり、万歩計を全社員に配って、「バンバン歩きましょう」というキャンペーンも実施しています。イントラネットで歩数のランキングなどを公表したりして、ちょっとお祭り的なこともしました。


【コミュニケーション】
―職場内のコミュニケーションについてはどうですか
 これも若手WGの意見でしたが、社長と若手課長が懇談したり、「段々飛び」といっていますが、職位を2つ以上またいでいるケース、普段なかなか話す機会のない、例えば担当からみた部長といった方と懇談する場合には、懇談会の費用を補助しましょうということにしています。これは非常に好評でして、この懇談会のために会社は結構な費用を投入しています。大体社員の半分ぐらいは期に一回懇談会に参加しているような状況です。
 イベントとしては、家族を会社に呼んで見学してもらって、最後に社内食堂でカレーを食べて帰ってもらうという「ファミリーデイ」を実施しています。
 また、全社の運動会ですね。これを一昨年から12年ぶりに復活させました。2000人とか2500人が参加して、大運動会を行いました。これも職場間のコミュニケーションの醸成というところで、ずいぶんプラスの影響があったと思っています。
 さらに、社員会とかと同じタイミングで、事業部のイベントを行ってくださいといってみたり、合宿形式の研修をたくさん復活させたりしました。日中のプログラムも色々な種類がありますが、結局は夜、みんなで集まって、「わーっと飲む」というのが中心です。

-懇談会はどのようにセッティングされているのですか
 社長との懇談会はさすがにこちらで準備しますが、職場懇談会や段々飛び懇談会は職場などから要望がでてきます。
 段々飛びはもともと本部長クラスの方が主任と意思疎通を図りたいというところから始まりました。本部長の方々が10人ほどを順番に集めて、自分自身のWLBを犠牲にして、週に2・3回と頻繁に飲んでくれました。すると、事業部全体の士気があがりました。そこで、これを全体的に展開したらどうかということになって実現しました。始めは上司から誘うことが多かったのですが、今では部下からというケースも多いようです。
 「しっかりやってくれるなら、簡単な手続きで補助を出します」というゆるやかなしばりで運用しています。

―以前にくらべてコミュニケーションは増えましたか
 会社の方針、自分の職場はどの方向にすすんでいくのかなどの、意識の共有という面でコミュニケーションは非常に大切です。かつてと比べてコミュニケーションが取りづらくなったとは思いませんが、意識的に行っていかなければならないと思っています。当社は飲み会に関してはかなりお金を出していますし、会社に飲むスペースがあるというのも大きいのかもしれません。


【事業公募、フリーアドレス導入】
―ダイバーシティを高めるという意味で何か具体的な制度はありますか
 仕事のやりがい感向上についても、キャリアの自由度を高めたり、自分がやりたいと思っている仕事を実際に事業化させるといったモチベーションを高める制度を導入しました。 特に事業公募については、開始時に多くの応募がありまして、実際に事業化したものも1件出ています。これはDNAを分析して、健康管理に役立てるというようなサービスでした。最近も新しく1件の事業が生まれて、これはオンラインゲームの共通基盤をネット経由で提供するというものです。当社としてはずいぶんくだけた内容のコンセプトですが、こういうものも認められるようになったのだなあと思っています。やりたい!と言った人がリーダーとなって、そこに予算がつくといったものです。公募があって、いろいろ審査があって、事業化検証のためのサポートがあって、最後に事業化されれば100万円ぐらいの賞金がでるというものです。
 これは、冒頭にお話しましたダイバーシティの推進の先にある、いろんな製品、独創性のある製品を作って発信していくということを、事業公募などをしていくなかで増やしていきましょうという思いから実施しています。
 あとは、ワークスタイル改革ということで、以前は固定の席で、大量のパソコンと資料が机の上にあるという状況でしたが、フリーアドレスを導入して、色んな単位でプロジェクトを実施して、流動的に席替えして、コミュニケーションが取れる職場にする取組をしています。
 また会議室をIT化したり、複写機・プリンターにも静脈認証をいれて、すっきりさせたりと、職場の生産性の向上につながるような改革をしています。電子黒板も全部の会議室に導入されています。


【取組の効果】
―WLBへの取組の具体的な効果はありましたか
 まず退職者ですが、取組の契機が若い優秀な人がどんどん辞めていくというところでしたから、このあたりはかなり気をつけてみています。2005年度に5%だった離職率が2008年度はほぼ2%になりました。これはITの会社としてはかなり低い数値だと思います。また、結婚・出産・育児を理由とする退職者も、もともと分母が小さいというのもありますが、05年度17名いたのが08年4~9月では3名、この下期は0名となりました。
 次に、優秀な人材の確保という観点です。2009年入社の応募総数が全体として増えていますが、このうち、かなりの部分が女性の増によるものです。女性総合職については、もともと女性が少ないという問題があったので、これを増やしていこうとしていました。結果としては2007年に10%だったものが、2009年に27%、来年入社予定についてもほぼ3割が女性ということで、職場としてはずいぶんバランスが良くなったという状況です。
 残業も、2004年のトラブルプロジェクト頻発のころは全社で平均月35時間ぐらいあったものが、昨年度通期で25時間まで下がりました。そして今年度上期は20時間まで減っています。また月に100時間以上残業する社員も04年には100人以上いて、そのころ経営会議で発表したら名簿に入りきらない人数でしたが、これが去年の上期で31名、下期が24名。この上期には問題が生じたプロジェクトが若干あって、30名ぐらいまで増えていますけれども、全体ではこれぐらいの水準にまで落ちています。
 結果として、月に10時間ほど残業が減った分、その分いろいろ生活の質がリッチになったでしょうということで、ワーク・ライフどちらにも良い影響があったと思っています。経営トップにも、業績回復と残業削減を同時にできたということで、取組を評価してもらいました。
 あとは社員満足度、これも定点的に観測しているものですが、年々向上しています。特にWLBに関する指標について、健康管理もしっかりしているといったことや、働きやすさが上がっています。
 業績についても、04年には92億円の赤字というすさまじい結果でしたが、おかげさまで昨年には最高益になりました。今年は全体の景況感がかなり厳しいので、少し下がるかなと思っていますけれども、ずいぶん体質的に変わりました。
 また社会的にも注目していただいて、社会経済生産性本部WLB優秀賞や日立グループの中での賞をもらったり、くるみんを取得するなど、さまざまな取材なども受けてお客様からも取組について高い評価をいただいています。


【展望】
―課題などはありますか
 制度は整備されたが、職場によっては使いにくい雰囲気がある、という課題があるので、「誰もが活用して、全員が実感できるWLB」というものを今後もめざしていきます。

―これから導入したい制度はありますか
 今でもたくさんのメニューを抱えているので、今ある制度の実効性を高めていきたいと思っています。どちらかというと、育児や介護のかたに焦点をあてて制度化していますが、会社全体からみると、そのメリットを受けられるのはほんの一部です。全員にWLBの向上を実感してもらうには、総労働時間の縮減が必要だと思っています。WLBと仕事を受注して業績を良くしていくということ、二兎をどうやって追うかが問題です。
 みなさんがこれをまとめるにあたって、WLBの向上ももちろん大切ですが、生産性を担保したうえでのことだということを理解してほしいです。少子高齢化とグローバル化という面からもWLBを考えていってほしいと思います。


—ありがとうございました


【インタビューを終えて】
 トップのWLBに対しての強い意思が印象的でした。さらにトップダウンだけではなく、ワーキンググループを中心としたボトムアップを行うことで、よりWLBが現実的なものになったのではないかと思います。日立ソフトがWLBを推進するきっかけは100億円規模の赤字でした。きっかけ自体はポジティブなものではありませんが、巨額の赤字という事実を解決するために、今までの働き方を変えるというアプローチの方法を取ったことで、赤字の削減だけでなく社員一人一人の意識も改革できたのだと思いました。
 また人事部のきめ細やかなフォローも制度の実効性を高めるうえで、重要な役割を果たしていたと思います。制度を作ったあとにも、社員の声を受けて柔軟に対応しているように思いました。
 今、WLBは一種のブームになっているといえます。しかし、ただ単に福利厚生として行うのではコストがかかり、会社にとっては財政を圧迫する要因になりかねません。とくに、不景気の状況ではWLBの取組は滞りがちです。しかし、「WLBは生産性向上のためのツール」だという視点で取組を行えば、人件費の削減や、社員の士気向上にもつながり有益であると考えます。それを行っているのが日立ソフトであると思います。
 最近は、会社のタテの関係が薄れていると言われていますが、日立ソフトでは会社としても積極的に進めていました。懇談会の種類もたくさんあり、社内のコミュニケーションが活発であることがわかります。このような取組によって、組織の力は作られていくのだと感じました。
 会社全体がWLBを真剣に考えているという雰囲気を随所で感じるインタビューでした。

【レポート作成者】  法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ3年 川端 三咲己

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