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花王株式会社(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2009)


花王株式会社

~多様性を尊重し、1980年代から仕事と生活の両立を支援する活動を広げている花王株式会社。今回は人材開発部の座間美都子さんにお話を伺いました~



【企業概要】

事業内容
 洗剤などの家庭用製品、化粧品、ケミカル製品などの研究・生産・販売事業
創業年
 1887年6月
男女別従業員数
 男性4,944名 女性1,096名
平均勤続年数
 全体18.4年
女性管理職比率
 4.7%(課長相当以上)



【ワーク・ライフ・バランスの取組方針】
―まず、ワーク・ライフ・バランス(以下「WLB」)について経営者の方のお考えをお聞かせください
 元々こういった活動は常にやっていました。私たちの企業行動指針(ビジネス・コンダクト・ガイドライン)に「社員の多様性と人権を尊重して個の力を最大限に活かす」ということをあげています。その中に仕事と生活の調和がとれるように努めることを含めていまして、かつこういったことを守ることは経営者管理者の責務と明記しています。私たちの会社が強くて(利益がちゃんと出せる)良い(社員が働きやすい)会社を目指すということ、それがまさにトップの考え方そのものだと思っています。

―WLB施策にいつごろから取り組んでいらっしゃいますか。また制度導入の背景も教えてください
 1986年に男女雇用機会均等法が施行されましたが、ちょうど当社でも女性社員が増えてきたということもあって、80年代後半から90年代にかけて色々な育児、介護の支援制度を充実させました。この頃は妊娠している女性がいると、「あなたいつまで?」と話をすると「あなたはいつまでで会社を辞めるのですか」という意味だったのですが、90年代半ばになると「あなたいつまで?」は、「あなたはいつまで休んで会社に出てきますか」というように質問の意味が変わるようになりました。このようにこの期間の活動で、社内の常識が変わるようになったということです。

―実際に女性の就業状況はどのように変わりましたか
 女性の勤続年数が伸びました。各種支援制度を始めた90年と10年後の2000年を比べると、女性の勤続年数は1.8倍になりました。こういった色々な制度を整え、職場風土の醸成や意識啓発に努めたことによる大きな成果だと思っています。
 ただWLBというのは、育児や介護の支援だけではないですよね。当時は女性が家庭の責任を負うという部分が大きな問題であったため、女性を支援しようというところが大きかったです。ただ10年もやってくると「男だって大変だ」、「女ばかりを対象とした活動なのか」という男性からの声もありますし、「女性を特別視しないでほしい」、「私たちは普通にやりたいだけです」という女性からの意見もたくさん出てきました。ということで、活動を進化させなくてはいけないと考え、男女ともに働きやすくなる会社にしようということで、「イコールパートナーシップ推進」という形で活動を広げました。

―WLB施策を実施する企業の意義をどのようにお考えですか
 多様な働き方や生き方が選択できる、健康で豊かな生活のための時間が確保できるということが大事だと考えています。社員の仕事と家庭の両立のための支援制度、社員が能力を発揮できる環境づくり、健康であること、時間を有効に使って仕事も家庭生活も充実して過ごせる、ということが必要であると思っています。

―実際、経営的な視点ではどう考えていますか
 何か仕事を頑張りたいときに、能力以外の障害をできるだけ取り除いて、キャリアが断ち切られることを抑えるように、そして社員が意欲をもって働くことができるようにということを進めたいと思っています。


【意識・風土づくり】
―WLB施策に対する社員の方の理解はどのような状況ですか
 今ある制度を知らない社員も比較的多いようです。ですから、こんな制度があります、これだけ使われています、安心して使ってくださいという情報を出していくこと、これは努力しても努力しても終わることがない、非常に大事なことだと思っています。
 現在、特に注力しているのが、男性の育児参加の促進です。男性の働き方を変えていく必要があります。まずこれから育児をやりたいと思っている人がきちんと声を出せるようにしたいと思っているので、「男性の育児休職取得の促進」をこれからも進めたいと思っています。


【男性の育児参加促進、その他の取組】
―男性の育児参加促進を進めたきかっけはなんですか
 「社員アンケート」により、男性30~40代は育児と仕事のバランスに悩んでいる人、時間がないと思っている人が多いということがわかっています。仕事と生活の両立が難しいと思うのは女性だけではなく男性も同じであって、そういった意味で男性に対する見方も変えていくということはとても重要だと思っています。私が思っているのは、ただ何が何でも全員育児休業をとれというわけではなく、休暇をとりたいと思う男性が手を挙げてとれるようにする、そういうことが当たり前な会社にしたいなと思っています。

―男性の育児参加促進に関して詳しく教えてください
 既に男性でも育児休職を取れる制度になっており、年に1,2名程度ですが、利用者が出ていました。さらに男性の取得のハードルを下げるために、2006年の9月に、育児休職の開始5日間を有給としました。たった5日間ですけれど土日をいれると全部で9日間になります。5日では短いのではないかという声もありましたが、社内は部門によって男性比率の多いところや、女性比率が多いところなどと色々な職場があります。そこであまり長くしてしまうと、現実的に皆に取ってもらえなくなる。いろんな職場の特徴があっても、多くの人にできるだけ使ってほしいので、まずはハードル低いところから、ということで5日間にしました。5日間+土日で9日間、有給休暇もつければだいたい2週間くらいは無理なく休めるのではないか、そのくらいだったら仕事のバランスや、上司の理解を得ようとするときにもハードルが低くなるのではないかと思っています。

―周知はどのように行っておられますか
 育児休職についての啓発活動を色々進めています。
 具体的には、管理職研修で説明したり、人事や勤労担当者に社員に情報を伝えてもらったり、外部の講師を呼んで講演会をしてもらう社内で啓発のフォーラムをしたり、子どもが生まれた男性社員にリーフレットを個別に配ってぜひとってくださいなどということをお願いしたりしています。

―他に社員の方のニーズの汲み上げ方法や工夫している点はありますか
 最近、社内のイントラネットのなかでイコールパートナーシップの課題についてリニューアルし、使いやすくしていろいろな情報を出していこうとしています。
 育児、出産、介護、働き方の見直し、ハラスメント防止、障害者雇用支援などのテーマで、なにか困った時があったらここを見れば情報があるのだとわかってもらえるように、このポータルサイトの内容の充実を進めています。イコールパートナーシップについてもわかりやすいように、「イコールパートナーシップ通信」といったリーフレットを作り、男性の育児参加など様々な特集を出して全社員に配るなどといった形での周知もしています。また社員にとって非常にわかりにくいのは、例えば育児支援として、会社で制度があります、互助会でもサービスがあります、行政でも何かやっています、となると、なにがどういった関係があるのだろうということになってしまいます。そこで、そういった情報を全部集めて、ここを見れば会社制度でも、互助会でも、行政でも全てわかるというガイドブックが使いやすいと考えて、そういった形のものを提供しています。


【労働環境基盤の整備】
―労働時間短縮という点で行っている取組はありますか
 社員証のICチップで職場への入退場を記録し、労働時間について、各個人単位で把握し、マネージャーはメンバーの労働時間がどうなっているかという確認をできるようにしています。残業が一定以上の時間になってしまった場合には、健康面談を義務付けしています。
 こういったことを行っていること、就業時間を守ることが大事だということは、新任マネージャーの研修の中で講義を行っています。
 また、定期的に「社員意識調査」を行い、組織の強みを伸ばし、課題改善をしていますが、直近の課題のなかで労働時間の削減ということをテーマに挙げていましたので、部門ごとに目標を立てて色々な取組をしていただいています。実際、社内の各部門の仕事内容や、仕事環境も様々なので一律に同じ取組だとなかなか実行が難しいところもあります。特に労働時間に関しては、例えば、有給休暇をだれがどのくらい取ったかを表に貼り出して、皆バランスよく取ろうということを促進したりしています。特に推進をしようと声をあげてくれたモデル部門に対して、個人別の残業時間を提示して、部門長と個人で目標を出したり、どんな風に取り組むかということを個別に目標を立てたりしています。事業場の中には、早帰りデーを決めて週に一回は早く帰りましょうなどアナウンスを流したところ、非常に大きな効果があったというところもあります。

―そのような取組をされて具体的にはどのような効果がありましたか
 少しずつこうしたことをしていくなかで、有給休暇の取得率等も上がってきています。昨年よりも上昇し、08年度は57%になりました。

―労働時間短縮に関する制度導入に当たって苦労した点はありますか
 各職種によって仕事の内容が違うので、効率化のために取り組む方法も一律ではできないというところです。例えば、自分自身が計画をたてて頑張るということであればその人の意識の変化だけで良いですが、社内外の様々な関係者とコミュニケーションして進めるようなところでは、相手のやり方も変えてもらうようにお願いしなければならない、あるいはうちが依頼される方でなかなか相手にお願いできないという場面もあります。このように自分たちの努力だけではどうしようもないときもあり、どのように各部門に合った課題、目標、計画を立てて進めるのかを理解し、実行してもらうことは難しいところです。

―メンタルヘルスに関する取組等がありましたら教えてください
 生活習慣病検診(人間ドック)を実施する時に、心の健康度のチェック問診という独自に作ったものを回答するのが義務付けられています。その点数がよくないと個別に面接します。たまたまその時辛いことがあってという方もいますが、本当に心配な方がそこから見つかったというケースもあり、全体傾向として現在会社は健康な人が増えているのか、減っているのか、本当に心配な人を見つけながら、その時に一番必要な、効果的な施策を打っていくということを健康関係の担当が中心になり行っています。悩みがありますという方には、社内と社外に相談の窓口が色々ありまして、特に個人の名前を言わなくても相談することができます。マネージャー向けの啓発研修や、年に一度社員への啓発研修、講演会というものも随時企画しています。


【両立支援制度】
―御社で取り組んでいる仕事と家庭の両立支援施策について具体的にお聞かせください
 育児休職については子が1歳の4月末まで取得可能で、条件によっては最長1年延長可能です。先ほども言いましたが、男性にも積極的に取得して欲しいため、開始5日間を有給としました。
 短時間勤務制度(メリーズタイム)は、現在、子が3歳まで1日最高2時間の短縮勤務が可能ですが、期間の延長を検討中です。時差勤務は子が就学前まで、1日2時間の範囲内で始業時間の繰り上げ・下げができます。それからフレキシブル勤務は子が1歳の4月末まで、半日・週3・在宅で半日のいずれかの働き方を選択可能です。
 ほかにも育児期間中の勤務の軽減、親一人につき5日間取得できる子の看護休暇などもあります。また私傷病特別休暇というものがあって、自分の病気や家族の介護・看護など、特別に使える有給休暇で最大40日使えます。そのためそれだけあれば何とかなるということで、介護休職を使う人がまだ限られているという傾向もあるようです。
(※2010年春に諸制度の改定予定)

―各制度の利用状況はどうですか
 育児休職取得率はずっと90%を超えています。ただ研究職の社員などの中には、休んでいる間に仕事が止まってしまうので休みたくないという人もいて、産後8週間で戻る女性社員もいます。やりたいという社員を止める理由は何もないので、そうやって意欲を持ってくれてありがたいなというところもあります。制度の利用は高ければ高いほうがいいのかもしれませんが、100%でないから悪いというわけではないと私たちは思っています。男性は40%くらいです。もっと上げたいのですがなかなか難しいですね…。取得日数は5日程度が最も多いです。短時間勤務に関しても定着していて、利用率は該当者の約50%くらいです。

―制度利用時の職場での対応はどうですか
 当社の中では制度を使うことは当たり前になってきています。子どもが生まれてすぐよりも、特に小学校に入る時期のほうが仕事と生活の両立が困っているという社員の声があるので、それに応えようと、短時間勤務制度を伸ばそうと考えています。ただ労働時間を減らすということはそれだけできる仕事が減るということなので、その間の仕事をどうやりくりするかということが、なかなかきれいごとではいかないという難しさはありますね。


【課題や今後の方向性】
―様々な施策について社内の反応はどうですか
 社員からは、人事はもっと努力してほしいという声を多くいただいています。実際いま企業を取り巻く環境は非常に厳しいので、新しいことにチャレンジしながらも、特に2008年の秋から景気もさらに悪くなっている、そういったときこそどうやってWLBを進めていくか、皆で創造性を発揮して頑張っているところです。色々な制度があるにもかかわらず、社員が知らないためにまだ足りないという声もあるので、社員に知らせていくということが大事だと思っています。会社としてもきちんと社員が理解しているか、伝わっているかというところを見なくてはいけなくて、あるのにどうして知らないのと、社員とアンマッチにならないようにそこを埋めていくことをしなくてはいけないなと思っています。

―非正規社員と正社員では制度利用に格差はありますか
 ごく一部を除いて正社員と同等の制度を利用可能です。

―これまでの取組の評価、施策を実施したことによる効果を教えてください
 過去20年くらいの取組で、女性社員の勤続年数が延びました。有給休暇の取得率も上昇していますし、直近のところでは早帰りデーの実施、それから社員のWLBの満足度が向上しているのを確認しています。

―WLB施策で失敗したことはありますか
 成功するまでやるので失敗はありません。ただ苦労していることはあります。例えば先ほど言ったように、短時間勤務制度などを導入した時に、円滑な職場との両立ということはきれいごとではなく、関係者全員が努力していかなくてはならないことだと思っています。

―今後の課題と導入したいと考えている施策があれば教えてください
 介護の支援制度をさらに強化し、お互いに助け合おうという職場風土の啓発が大きな課題です。それから育児に関しても、社員の声を聞きながら必要があればさらに支援制度を拡充させ、そして皆がそれを使えるようにしていきたいと思っています。これをさらに広げたところで、今は主にファミリーバランス、育児や介護の両立という話をしてきたので、それをもう少し色々な価値観でも認めていくかたちに、時間をかけてやっていけると良いと思っています。

―最後に、政府や社会に求めることはありますか
 「当社ではこうやっている」など事例などを紹介していただく、また共有させていただくということはすごくありがたいことだと思います。ただ今は若干、情報が逆に過剰になっているところもあるので、本当に必要なものはなんだろうかという整理も必要になってくる段階かなと思います。
 また男女ともに仕事も育児もする、結婚して共に生活をするということは、男が外に出て女が家にいるということではなくて、夫婦ともにそういったことをお互いにやってサポートしていくものだと私は思っているのですが、そういったことは子どものうちから教育したり、親がそうだったというのを見たりしないと、なかなかわからないと思います。なんとなく風潮としてお母さんが家にいなくてかわいそうとか、あの子は鍵っ子だからとかマイナスのイメージの中で、女性が仕事をするっていうのはいけないことなのかしら、というかたちでやるのでは「男女共に」という意味でなかなか進まないと思います。だからもしも政府として進めるということがあれば、特にお願いしたいことは、小学校くらいからそういったことの教育を進めていただきたいと思います。


—本日は貴重なお話をありがとうございました

【インタビューを終えて】
 これまでワーク・ライフ・バランスついて勉強するなかで、様々な施策を導入することは、社員にとってはもちろん、生産性や効率化の向上という面から考えて企業にとってもメリットであり、両者がwin-winの関係になれるものであると安易に考えていた部分がありました。しかし実際に企業の方からお話を伺って、社員のために働きやすい環境を作ることと、きちんと利益が出せる経営との両立は一筋縄ではいかない難しさがあり、制度の運用から定着にいたるまで、並大抵ではない時間と努力の積み重ねが必要であることを強く感じました。今回の取材のなかで人材開発部の方が「例えば、小学校6年生まで育児休職取れる制度があっても実際使っている人が1、2割しかいないのと、2歳まで取れる制度だけどほとんどの人が利用できているというのでは、どちらの会社が良い風土でしょう。私は使えてこそ制度だと思っています。」とおっしゃっていたことがとても印象に残っています。メディアに取り上げられるような目新しい制度が形だけ存在していても意味がないわけです。制度の有無や数ではなく、今ある制度がどれほど定着し、どれだけ使われているか、使いやすい風土であるかどうかが本当に大切なことであるということをこの言葉から考えさせられました。

【レポート作成者】  法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ3年 佃 祐美

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