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株式会社日立製作所(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2009)


株式会社日立製作所

〜ワーク・ライフ・バランスを通じて、多様な人の仕事へのやりがいを高めると同時に、個人とチームの生産性向上を推進してきた株式会社日立製作所。その取組について、労政人事部ダイバーシティ推進センター センター長である西岡佳津子様にお話を伺いました〜



【企業概要】

事業内容
 情報通信システム、電子デバイス、電力・産業システム、デジタルメディア・民生器機、高機能材料、物流及びサービス他、金融サービス
設立年
 大正9年(1920年)(創業 明治43年(1910年))
従業員数
 (単体)40,549名 (連結)400,129名(2009年3月末)

【ワーク・ライフ・バランスの取組について】
―まず始めに、ワーク・ライフ・バランスの取組についてお伺いします
 社内で2008年から、「基盤強化08-09」という取組を始めています。 何の基盤強化かといいますと、経営の基盤です。環境問題への対応や、ITC・インフラなど、当社が飛躍し社会に貢献していくための底力を強化する活動を展開しています。その際、企業の成長を支えるのは「人財」であり、これをより一層強化することが重要になっています。物を作っている技術の会社ですので、技術を進化させる社員自らが成長し続けないと、お客様により良い商品、製品、サービスなどを継続してお届けすることができません。そのため、人材の活性化に関して重点的に経営基盤強化の中で取り組んできました。
 特に、多様な働き方を選択することができる「ダイバーシティ」を重視しており、ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)はそのための基本的な考え方と捉え、これまでの働き方の見直しを進めています。

―具体的には、どのような取組をされているのですか
 現在、厚生労働省の「仕事と生活の調和推進プロジェクト」にも参加していますが、具体的には、「メリハリのある働き方の推進」、「心身の健康増進」、「職場のコミュニケーション力強化」の3つのテーマに取組んでいます。それ以外に育児・介護と仕事の両立支援の拡充も進めています。


【WLBの効果】
—今お聞きした中で、様々なことに力を入れているのを感じ取れましたが、それを実際に実施することによって、社員の方に及ぼす効果と企業にとっての効果(意義)をどのようにみておられますか
 1つは、「ダイバーシティ(多様性)」という観点です。多様なバックグランドを持った社員が、多様な働き方を実現できる環境というのを考えていく上で、やはりWLBを実現することが大事だと思います。これは、社員の能力を最大限に活かすことにつながります。
 もう1つは、WLBというと、仕事と家庭生活の両立支援のような部分に注目されがちなのですが、本当はそれを支えている組織とか業務、それを見直していくことが大事なはずです。それが先ほどの経営基盤であり、経営基盤がしっかりしていることによって、新しい技術を開発・提供したり、お客様に高い価値を提供し続けたいというのが最終的な目標です。その中で、社員自身の働くモチベーションを維持したり、業務の見直しによる効率化を実現することが重要です。

―社員の方たちが改善すべきだと思ったところについては、社員の意見を踏まえて取り組むのですか
 そうですね。さまざまな施策は、事業グループごとに取り組んでいる要素が大きいです。事業グループによってターゲットとする顧客が違うし、社員の仕事のやり方も違うんですね。そのため、事業体ごとに取り組むのが社員にとっては一番良いという面があります。WLBの取組も、全社的に取り組む部分もありますが、事業グループごとの特徴もあります。また、例えば東京と地方では社会環境も違うので、地域ごとの特徴もあります。

―ビジネスのスピードが加速し、進化すると、それにあわせてWLBというものも新しく変わっていくのですか
 取り組み方が変わってくるかもしれませんね。例えば1年前と比べて、経済環境は大きく変化しました。景気が良い時には、もっと生活面にゆとりを持たせようといったニュアンスもありましたが、現在のような景気の下で考えるべきWLBというのはちょっと違ってきているかもしれませんね。ただ、もともとWLBというのは、働く人にかなり厳しい要求をしている部分もあるのです。生産性を上げたり、仕事の質を上げるということは、とても大変なことで、実は高度なスキルや職場のマネジメント変革を求めていることになります。だからこそ、真のWLBの実現というのは、企業にとっても社員にとっても、大きな課題だと考えています。


【メリハリのある働き方の推進】
―御社では「メリハリのある働き方の推進」「心身の健康増進」「職場のコミュニケーション力強化」の3つを大きな柱として推進されているということですが、メリハリのある働き方について具体的に教えてください
 現在、長時間労働の縮減ということを大きく掲げています。忙しい時期には、かなりの長時間労働が発生していて、「何とかしなくてはいけない」という思いがありました。2008年から、具体的な数字目標を設定して全社的な運動として推進しています。
 基本的にはパソコンのオン・オフで勤務時間を把握しています。勤務時間がある一定時間基準になると、上長と部下のパソコン画面に「○○さんが月何時間を超えています」というメッセージを、ポップアップで毎日表示するようにしています。プロジェクト制で業務を進めていると、いろいろな拠点で部下が働いているため、上長も部下の勤務状況が把握しにくいという場合もあり、部下の勤務状態を定量的に知らせることを、ITを使ってサポートしていこうということです。このデータをもとに、経営層にも状況を理解してもらうため、定期的な報告もしています。長時間働く社員が多い部門では、どうやったら改善できるかという話し合いなどにつなげています。

―他にも長時間労働の縮減のための制度や取組はあるのですか
 全体的には、長時間労働を是としない環境を整えることが重要です。また、事業所ごとに、「ノー残業デー」を設けたりしています。ただ、勤務時間が多様になると、誰がどういう状態で仕事をしているのかを把握しにくくなるという面もでてきます。

―その場合は、どういう工夫がされていますか
 部署によっては、朝礼や昼礼を行ったりしています。ある部門では夕礼を実施しています。夕方、仕事の進捗や明日の予定をみんなで確認しあいます。そうすると、その時点で一旦仕事の区切りがつくとともに、何の仕事で残業するのかなども、お互い把握でき、仕事の優先順位や他の人の状況も理解できます。

―「ノー残業デー」ではどういったことをされていますか
 事業所によっても違いますが、本社では、ポスターを掲示したり、定時に館内にアナウンスや音楽を流したりしています。

―「ノー残業デー」だけではないですが、例えば残業をしないで帰ったあとに、社員の方はどのようにされているのかを把握したりするのでしょうか
 プライバシーの問題もあり、基本的に会社にいる間のパフォーマンスをあげていただくことがねらいなので、会社から出た後の個人の問題までは関与していません。

―ノー残業デーやフレックスタイム勤務などの他に、働き方に関する取組で工夫していることはありますか
 各事業所で個別に様々な取組があります。例えばシステムの設計を行っている事業所では、「集中タイム」を設けている事業所があります。ある一定時間メールソフトを利用しない、電話をかけない、会議をその時間に設定しないなど、業務に集中できる時間を作ります。設計作業は、非常に集中力を要する仕事です。メールのチェックや電話で作業を中断されると、作業効率が落ちる場合もあり、意図的に集中できる時間を設けているところもあります。
 細かいことですが、メールに関するルールを決めているところもあります。メールは1日に数百件単位で送受信しています。そのため、件名をわかりやすくしたり、参考で流しているだけなのか依頼事項があるのかを明確にする、期限を明確にするなどのルールを策定しているところもあります。
 会議の効率化も重要です。会議で初めて資料を見てその確認作業をしていると、会議の時間がどんどん長くなります。そこで、事前にアジェンダを送って、会議の目的を明確にし、事前準備をしてきてもらって、決定事項や課題などをその場で確認するというように効率化に努めています。

―社員の方々の働き方は変わってきましたか
 社員に毎年意識調査を実施しているのですが、「仕事量が多いと思いますか?」という質問に対して、「多い」と感じている割合は2007年から2008年にかけて減っています。また、別の質問で、「上司の部下に対する状況把握や業務配分は適切だと思うか?」という質問には、「思う」という人が、少しずつですが増えてきています。そういった点では、業務の見直しや効率化は進んできているのかもしれません。


【心身の健康増進】
―心身の健康増進についてお伺いしたいのですが、社員の方の健康面への配慮について何か取り組んでおられますか
 1つは、ストレス対処研修を若手対象に実施しています。40歳未満の社員約2万人を対象に、2008年から3年間で重点的に進めています。きっかけは、「若手社員のストレス耐性が近年弱くなってないか?」という懸念があったからです。少子化の影響もあり、家庭や学校で叱られたり、厳しく指摘されたことのない人も若手層には存在し、会社で初めてさまざまな挫折を経験する人もいます。失敗したくないという意識の人も多いのですが、新人の頃は時間もかかるし、お客様にもなかなか喜んでもらえない、技術的にもまだまだ未熟という点で、ストレスを感じることも多いのですが、それをどうやって解消していくかが重要です。ストレスがどのような状態で起きるのかを知り、早めに自分でも対処できるよう研修を実施しています。

―心のケアは、早めの対処はもちろん、自分で解消していけるようにすることも大事なのですね。しかし、若手だけでも2万人もの社員に研修をさせるのは大変ですね
 社内にトレーナーを100人程度養成して、そのトレーナーが社員に対して研修を実施するという仕組みを作っています。

―他にも健康面では、何か実施されていますか
 日立製作所健康保険組合では、健康のために、一例として、ウォーキングプログラムを提供しています。万歩計のデータをパソコンからインターネット上のサイトに転送すると、サイト上で、例えば四国88ヶ所巡りの中で、今、自分がどれ位歩いているのかというのがわかるようになっています。家族や職場で参加することも可能なので、競争しあうこともできます。また、健康の相談窓口を設けて、ご家族も含めて心や体の健康相談ができるように対応しています。その他、研究所や健康管理センターが共同で開発したダイエットプログラムもあります。たとえば、100キロカロリーを消費するには何をすべきかというカードがあって、ケーキは半分にするとか、歩くのは30分といったことが書かれたカードから各自が選んで、それを実行します。社内でトライし、体重を減らすことに成功した人も多く、社外にも提供しています。
 健康でいるというのは非常に大切で、病気になると本人も本当に大変ですし、職場として計画的に仕事を進めていくことが難しくなります。日頃から健康に気をつけることは大事なことだと考えています。


【職場コミュニケーション力強化】
―御社では、「職場のコミュニケーション力強化」とはどのようなことを行っているのでしょうか
 管理職層向けに、コミュニケーション力強化研修を実施しています。特に着目したのは、「聴くことと伝えること(傾聴とアサーション)」の習得です。
 管理職の話を聞いていると、職場のコミュニケーションについて非常に問題意識を持っているんですね。特に管理職層は忙しくて、日中はお客様のところに出かけているということも多いです。そのような場合に、例えば子どもを抱えて働いている部下がいると、ゆっくり話を聞きたいにもかかわらず自分が会社に戻ってくる時には部下は帰ってしまっている場合もあり、部下とどうやってコミュニケーションをとろうかと真剣に悩んでいる上司も多いです。限られた時間の中でも、きちんとコミュニケーションをしなければいけないと思うわけです。
 きちんと話を聞くということは意外と難しいんです。上司は聞いているつもりでも、実は部下の思いをきちんと聞けているかというと不十分な面があります。部下は「はい、わかりました」と言っているけれども、「何か不安そうに思ってるな」というのが、きちんとコミュニケーションすることでわかるわけです。コミュニケーションというのは、言葉だけではありません。相手の様子を理解することが大事です。そこが忙しいと、「何?聞いてるから」と言って、パソコンに向かったまま、目も上げずに会話をするといったことになりがちですが、きちんと相手と向き合って話し合うように、自分を変えていく必要があります。
 アサーションについては、遠慮して言いたいことが言えず我慢をしてしまう、伝えたいことが伝えられない、ということが結局は、コミュニケーションを阻害することにもつながります。上司と部下が伝えたいことを伝え合うためにも、このような研修を実施しています。

―上司と部下とのコミュニケーションのやり取りは職場で働く同士としては、大事なことなのですね


【ワーク・ライフ・バランスに対する今後の課題】
―御社における今後の課題などがあれば、お聞きしてもよろしいでしょうか
 そうですね。長時間労働の縮減などの取組を行ってきて、社員の働き方が本当に変わってきたのかという点を検証した上で、さらに生産性向上のために取り組んでいく必要があると考えています。


—本日は貴重なお話をどうもありがとうございました

【インタビューを終えて】
 多様な人々が働いている大組織の日立製作所で行われているWLBは、大きく2つの特徴に分けることができます。1つはダイバーシティで、2つ目は経営基盤の強化です。
 1つ目のダイバーシティにおいては、多様な人々が働いているということから、1人ひとりの持つ価値観・文化・属性が多様であり、その多様性を組織で活かす、そのためにWLB施策が位置付けられていました。2つ目の経営基盤強化においては、「メリハリのある働き方」、「心身の健康増進」、「職場のコミュニケーション力強化」の3つの柱を軸に置いています。日立製作所の経営理念に沿って、「働き方」に関する3つの柱を経営という視点から明確にしています。多様な人々に適合させる働き方を追求し、個々人を活かせるような職場づくりを目指しているのだと感じました。
 また、日立製作所が行っているWLBへの取組の特徴から、WLBとは、ただ働いている人々のために企業側が支援するだけの一方通行ではなく、企業の掲げている組織理念に沿いながら、働く人がそこでどのような改善をすれば企業と働く人にとって良い結果を生み出すことができるのかを考えていくことも重要であるということを学びました。それらを融合させることが、企業側にとっても働いている側にとっても納得のいくWLBになるのではないのかと考えました。

【レポート作成者】  法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ3年 杉田 美香絵

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