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キャノン株式会社(大学生によるワークライフバランス推進企業への取材2010)
2010/07/01
〜仕事も人生も充実させる。それこそがプロのビジネスパーソンであるという理念のもと、行動指針に「健康第一主義」を掲げ、時代に先駆け休暇・勤務時間等に関わる制度の拡充を図ってきたキヤノン株式会社。人事部の狩野課長、橋本さん、広報部の大林課長、猪飼さんにお話を伺いました。〜
【企業概要】
| カメラ、ビデオ、インクジェットプリンターをはじめとするコンシューマ製品、ネットワーク複合機やLBP、大判プリンターをはじめとするオフィス機器、半導体露光装置(ステッパー)や医療画像記録機器をはじめとする産業機器 | |
| 1937年 | |
| 25,683名 |
【WLBの取り組みについて】
―御社ではワーク・ライフ・バランス(以下WLB)をどのようにとらえていますか。
会社は仕事をする場であり、何よりも、自らの仕事をきちんとやることが従業員一人ひとりに求められます。その前提を踏まえ、従業員一人ひとりが自らの工夫により仕事と生活の調和を図り、業務の生産性と個人の生活の両面における好循環を生み出すWLBは、会社と従業員双方にとって好ましいことです。しかしながら、WLBを推進するためには、上司によるマネジメントや個人の就労観の変化が求められ、これはたやすいことではありません。
弊社では、WLBを推進するために人事制度の整備と職場風土の形成という側面からアプローチしています。例えば、定時後に速やかな退社を促す「ノー残業デー」を実施していますが、これも制度としての趣旨を周知することに加え、定期的に退社状況を確認しフィードバックするなど、「ノー残業デーは速やかに退社しよう」という職場風土を職場に根付かせる取り組みをしています。
―仕事を効率的にやるためにワークライフバランスは必要ということですね。でも、日本の風土として残業して仕事をするということが当たり前みたいな感じがしますが… 。
残業そのものを否定しているのではありません。個々人には組織の目標を達成するために与えられた役割と責任があり、場合によっては残業をしてでも成し遂げなければならない時もあるでしょう。確かに、慢性的な長時間労働があたりまえという風土は一昔前にはあったかもしれませんが、少子高齢化による労働力人口の減少が一段と進む中、日本が今後も成長しつづけるためには、男女が共同して社会に参画することが必要不可欠であり、これは社会の要請であると言えます。弊社では、WLBを「社会の期待」と捉え、それに応えるべく残業に依存しない効率的な働き方を推進し、慢性的な時間外労働を撲滅しています。
—御社の「WLB」の取り組みについて教えてください。
弊社では、1967年に他企業に先駆けて完全週休2日制を導入するなど、WLBという言葉が社会的に認知される前から、定められた就業時間中に効率的に働き、仕事を終えたら自らの時間を有意義に活用するという風土を醸成してきました。その風土は今も受け継がれており、各種休暇制度、育児休業制度・介護休業制度等、法に定められた水準を上回る制度を整えてきています。
その中でも、最近では出生支援の観点から不妊治療費の補助制度や妊娠時に休業を可能とするマタニティー休業制度、マタニティー短時間勤務制度などを導入しました。
—短時間勤務をすることや休暇を取るということを風土として定着させるのは、とても難しいような気がするのですが。
社内には自分の意見が言いづらいといった雰囲気や風土はありませんが、例えば、人によっては休暇を取得することにより、上司や同僚に迷惑をかけてしまうのではないかという懸念や不安があるのも事実です。もちろん、仕事は一人では完結せず、周囲と協働して行なうものである以上、休暇を取得することにより周囲に迷惑をかけるようなことはあってはなりません。
その上で、弊社では、休暇の取得に関する懸念や不安を少しでも払拭してもらうために、週2日の「ノー残業デー」を設けたり、個々人が保有する年次慰労休暇を5日連続で取得することを原則とする「フリーバカンス制度」などを導入して、効率的な業務の遂行を推進し、あわせて休暇が取得しやすい風土の形成に努めています。「しっかり働き、ゆっくり休む」これが弊社のWLBを推進する上でのスローガンです。
—実際に制度を従業員の方に周知する方法はどのようなものがあるのでしょうか。
制度の周知や風土の形成というのは一朝一夕にはできず、継続した働きかけが求められます。例えば、効率的な時間の使い方を啓蒙するポスターを社内に掲示したり、社内報で育児休業取得者の体験談や座談会の模様を特集記事として載せるなどの取り組みをしています。このほか、会社と労働組合が協賛してWLBに関するセミナーを開催したりしています。
—制度を取り入れてからの従業員の方の反応はどうですか。
概ね良好です。例えば、先ほど申し上げた「ノー残業デー」を徹底することにより「その日にやらなくてはいけないものを真剣に考えて仕事をするようになりました」という声や「今日はノー残業デーだから、この会議は明日にしましょう」という会話がされていることを確認しています。また、育児休業の取得期間中に、3カ月に1回程度、上司から会社の近況や職場の状況を連絡することを推奨していますが、これについても「スムーズに職場復帰ができた」という肯定的な声も確認しています。
—女性の育児休業からの職場復帰との関連なのですが、職場復帰支援のための「ひまわりCLUB」というホームページの内容を教えてください。
「ひまわりCLUB」とは、育児休業者復帰支援プログラムの呼称で、自宅にあるパソコンからアクセスし、会社の近況や社内のビデオニュース等を閲覧できるものです。また、利用者にアンケートを行い、自宅にいながらPCスキル等を習得するe-learningの受講を可能にしました。
—育児支援として「ポピンズナーサリー多摩川」という保育施設を旧体育館跡地に建設されているということなのですが、従業員専用の施設なのでしょうか。
いいえ。東京都の認証保育施設ですので、地域住民の皆様に開放しています。現在園児が50名ほどいますが、そのなかでキヤノン社員の子供は7名から8名ほどです。この施設は少子化対策を目的とした社会貢献活動の一環としての取り組みの一つです。
【メンタルヘルス】
―WLBは仕事を効率よくやるためにというのが前提と伺いましたが、メンタルヘルスについてはどうお考えでしょうか。
弊社では、メンタルヘルスに関する専門の部署を設けて、従業員がメンタルヘルス不調に陥らないよう未然防止に努めています。また、メンタルヘルス不調に陥る原因は、従業員一人ひとりの事情によりそれぞれ異なりますので、従業員一人ひとりと充分なコミュニケーションをとり、適切な対応を促せる体制を整えています。
【今後の課題】
―今後の課題についてお伺いします。
これまで説明してきたとおり、弊社では時代に先駆けて仕事と生活の調和推進に向けた取り組みを進めてきましたが、今後も、従業員がいきいきと働ける環境整備に努める姿勢には変わりがありません。WLBとは、その時々の社会情勢等を鑑み、その時代にあった対策を講じていくことが求められますので取り組むべきことはまだまだあると感じています。一例を言うならば、高齢化による介護に対する対応などが挙げられます。
―政府や社会に求めることはありますか。
一人ひとりの仕事と生活の調和を推進するためには、一義的には個々人がそれぞれのキャリア等に基づいて自ら行動を起こすことが求められますが、一方で国や政府そして企業がバックアップしてくことも欠くことのできない視点であると思います。例えば、待機児童の問題などが挙げられ、弊社の社員でも復職したいけれど保育園が決まらないため育児休業を延長せざるを得ないという状況をよく聞くようになりました。
—本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。
【インタビューの感想】
今回のインタビューを通して、仕事のためのワーク・ライフ・バランスという考え方を学んだと思います。その中でも、人とのかかわりを大事にし、それぞれの意見をくみ取って制度にしていると感じました。橋本さんが「WLBと聞くと、バランスという言葉から仕事と生活の割合を50対50にすることと思われがちだが、決してそのようなことではなく、個々人が会社生活におけるそれぞれのライフステージで仕事と生活を調和させて豊かな人生を送ることが重要」とおっしゃっていたのが印象的でした。インタビューを受けてくださった方全員が、WLBに関する制度は整っているが、利用するか否かはあくまでも本人の判断であるとお話しされており、こういうスタンスが、他の企業にはなかったと思います。この話を聞いていて、私はとても人のことを大切にしていると感じました。「本人の判断」と言葉だけ聞いてしまうと、冷たいと思う人もいると思いますが、本来、社会人であるなら「本人の判断」が出来て当然だということを再認識させられました。
自分が生きていく上で、この「自分自身の判断基準」を持っていないと何も決まらないということ。つまり、WLBを上手にとるには、自分自身のために、自分で決めてバランスをとるという強い当事者意識が必要であるということを実感しました。そして改めて、仕事は生きることと密接に関わることであると再認識しました。
【レポート作成者】
法政大学キャリアデザイン学部 武石恵美子ゼミ3年 野田 奈央












